3時58分の電車 |
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3時58分発の快速 松木行きの電車で、いつも見かける男性がいる
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その人はきまって 進行方向から2両目のドアの前に立ち
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ボーっとただひたすら 外を眺めている
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もちろん 雨の日も風の日も、屋根が真っ白に染まる雪の日だって
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一日も絶やさず、その人は毎日 その同じ時間の電車に乗っている
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その光景は 目立って他人に迷惑をかけるわけでもなく、至って普通だが
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長田駅と須長駅の間の区間 少し急なカーブのある所にさしかかると
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急にその表情がこわばり 凛とし、そして 悲しげに変わる
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そう、その男性は ちょうど一年くらい前に、この3時58分発の
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快速 松木行きの電車の車両脱線事故により、愛する妻を亡くしていた
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その事故現場を通過する度、男性は静かに目を閉じ 妻の事を想ってきた
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そして、それと同じくらいに あの時の 甦る記憶を恨んだ
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2人の間には 5才になる子供がいて、これからたくさんの幸せが
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待っているという矢先の出来事で、その男性は心底 心を痛めていた
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そして今日もその男性は、3時58分発の松木行きの電車に乗り込んだ
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「ポツ ポツ…」と小雨が車窓に当たる音がする
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しかしその音も次第に激しさを増し、叩きつけるような大雨に変わった
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「あの日と同じ大雨だ…」 男性はそう思い 窓の外を見ていた
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そして、長田駅と須長駅の区間のカーブにさしかかった瞬間
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「キィィーーー!!」と、車輪とレールが激しく擦れる 鈍い音がした
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電車は一瞬 宙に浮き、物凄い勢いとともに 横転してしまった…
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その報道は 臨時ニュースとしてすぐさま伝えられた
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なんと先頭車両よりも、2両目の損傷が激しい と、そう伝えられた
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その事故以来、3時58分発の快速 松木行きの電車には
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その男性の姿は見かけなくなった。 ただひとつ、気になることがあって
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いつも男性が窓の外を眺め 立っていた所に かわって
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毎日 子供を見かけるようになった
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ちょうど5、6才といったところだろうか…
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