指の糸
ある日、僕の指先から 糸が出ている事に気づいた
ちょうど爪と指の間あたりから うっすらだが 糸が出ている
右手の全ての指先からだ その5本の糸が この僕に、
あたかも「どうか引いてみて下さい」と、言わんばかりに 垂れ下がっている
僕は迷ったあげく まず親指の糸を引っ張ってみる事にした
左手の親指と人差し指とで その糸の先をちょんとつまみ
唾を飲み込んだあと おそるおそるそれを すぅ〜っ と引いてみた
するとその糸の先には ちいさくて四角い旗がついていた
国旗だ! 四角くくて 真っ白い生地に 
真ん中に ぽこんと うめぼしの様な赤い丸がひとつ
どうやらこれは 日本の日の丸の国旗のようだ
パタパタと ちいさいながらにも 風に揺れている
僕はこの指先から出ている糸が何なのか!? まったくわからずにいたのだが、
「よしこーなったら 次は人差し指の糸を引いてみよう」と、
同様に 人指し指の先っぽから出ているその糸をつまみ するりと引っ張ってみた
するするする〜と糸が指先から解けていき、その糸先についていたものは
どうやら緑色をしているようで なんだか硬い甲羅のようなものがある
「あっ、これはカメだ」 しかも全長が1センチにも満たない ちいさい緑ガメ
顔や手足が隠れてしまっているので 甲羅をコンコンとノックしてみると
甲羅に隠れていた顔を ニョキ っと出し、僕にこう言った
「その節は どうもありがとうございました…」
そして恥ずかしそうに すぐに甲羅の中に戻ってしまった
僕は なんか昔に このカメを見た事があるような そんな気がした
この糸は一体 何を意味しているのだろう…??
僕は何かを思い出しそうな そんな予感を胸に、続いて中指の糸を引いてみた
するするする〜と 次に糸の先から現れたのは、なんと!? 
それはそれは忘れもしない 小学生のときの 担任の先生だった…
先生は いつもの紫色のジャージに 常に持ち歩いていた竹刀を振り回し、
ちいさいながらも 僕の指を 「ペシペシ!」 一生懸命たたいている
どうやら なにかに怒っているようだが、よく聞こえないし 別に痛くはない…
これは一体 何だって言うのだ!? さっぱり分からない
残る糸はあと2本、次はいよいよ薬指を引っ張ってみた

するとその瞬間、「カラン、コロン」と透き通るような音がした

薬指の先から飛び出してきたのは、そう鈴である 銀色に光る鈴
引っ張った糸に揺られて 鈴の音が響き渡っている とても心地が良い音だ
と、その時 違和感を感じた 今までの糸とは少し張りが違う
糸にまだ重みがあることに気づいた
銀色のこの鈴の先には まだなにかついている そう確信した僕は、
再度、その糸を引っ張ってみた 「ぐいぐい」っと引いた、その瞬間!?
「バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ〜っ!!!」 
あたり一面にたくさんの羽が舞った…そして青い鳥が空に向かってもがいている 
僕は飛ばされそうになり、必死で電柱にしがみついた
左手は電柱をつかんではいるものの、右手だけは完全にバンザイ状態で 
指先から伸びる糸の先に 結ばれている青い鳥は 空に向かって飛んでいる
その青い鳥は、先ほどにも増して 羽をばたつかせている
その結果、僕の抵抗も空しく その左手は電柱をはなれ、両足が地面から浮いた
「一巻の終わりだ…」そう思い、諦めかけて 宙に浮いて行く僕は、
最後の糸 小指の先の糸のことを思い出した!
手榴弾のピンを抜くように 糸を口にくわえ 必死にそれを引いた
すると、体中がとても眩しい光に包まれ トンネルに吸い込まれるように
どこかの空間に引きずり込まれ 僕は意識を失った
………どのくらい時間が経ったのだろう?
僕は、暖かな日差しと 花の匂いで目を覚ました……
あたり一面 向日葵の咲く草原の中に 僕は横たわっていた
なぜかとても穏やかで なんとも懐かしくもあり、心が開放される空間
そして僕は 誰かに膝枕をしてもらっている事に気づいたのだ
しかし それが誰なのか分からない、日差しに目が奪われ よく顔が見えない 
だが、もうそんな事はどうでもよかった…
今まで起きていた事は全ては幻想だ、全てが夢だったんだ 
ここが現実の世界、そして ここが僕の楽園なのだ
そして 母に似た 暖かい温もりをくれるその人は
膝枕をしながら 僕の頭をなでてくれた 僕はすぐ眠りに誘われた
そして その暖かい指に触れようと 手を伸ばした瞬間
「ん…?」 何かに触れた!? ぶらんぶらんと揺れている何かに触れたのだ…
「はっ!?」と、僕は一瞬にして目が覚めた!?
そして、まさか…!? と その人の指の先を見てみると
そこから なにか糸のようなものが出ていた…