誘拐

そこの角を曲がった3丁目のボロアパートに

サイレンを鳴らした消防車やパトカー そして救急車が一気に急行した

あたりは騒々しく すでに野次馬もそのアパートを囲み

固唾を飲んで見守っている

夜の空に次々と吸い込まれていくかのように 2階の破れた窓から

メラメラと炎や煙が上がっている

消防隊員の決死の消火活動の末 2時間後にその火はようやくおさまった

出火元はどうやら角部屋の203号室らしい

ここに住む家族は 幼稚園の子供とその両親 そしてお祖母さんの4人で

前者の3人はなんとか逃げれたものの 足の悪い祖母だけは

逃げ遅れてしまったらしい、 ほぼ絶望的だった

しかし奇妙な出来事が起こった…

翌日の現場検証で 祖母の姿がどこにも見当たらないのである

火事が起きる1時間ほど前には、祖母は もうすでに床についていたという

遺族らの話だが、どこを探しても遺体が見当たらない

どこかに消えてしまったかのように…

そしてもうひとつ 奇妙なことがあって 第一発見者である向かいの主婦が

何を聞いても 口を閉ざし、怯えているのである

警察はその主婦が落ち着くのを待ってから 話を聞くことにした

そして3日後、主婦はようやく口を開いた そして声を震わせ

「あ、あの晩、私は見たんです…火災を発見したと同時に、

何者かが2階の窓から お祖母さんを背負って屋根に上り 

そのままどこかに消えていくのを…」

その事故、いや事件は未解決のまま迷宮入りし、3年の月日が流れた

残された3人の家族も ようやく落ち着きを取り戻し、

この奇妙な事件の噂話をする人も 誰一人いなくなった そして、

また昔のような静かで穏やかな毎日を送っていたのだが、あの日以来

子供は、夜になると なぜかずっと屋根の上を眺めている

母親が「なぜ屋根ばかり眺めるの?」 そう聞くと、

「向かいのおばちゃんが言ってたんだぁ、あの晩 屋根の上で

おばあちゃんをさらって行ったのは 忍者だったんだって…」